特集  「中国 成都からのたより」

広島から中国四川省成都へ飛び、現在、日本語教師として活躍中の仲間が3名います。その中のお一人、坂本静子さんが、定期的にお便りをくださっています。今回の特集は坂本さんからの四季折々のお便りをご紹介します。四川省の四季を皆さんもお楽しみください。

 

 

<夏の便り>

 成都特有の蒸し暑い夏になりました。広島も梅雨入りしたとか。どちらも不愉快な季節です。恒例の日本語コーナーは、テーマを梅雨としていたところ、成都人にとっては好ましくないテーマだ、とクレームが入りました。末期の集中豪雨は別にして、私たち日本人の頭の中には、あじさい、くちなし、かたつむり、ホタル等、梅雨ならではの風景がありました。日常的な曇り空や、これから夏に向けて雨の季節に向かう土地の人たちには、雨+かびというイメージしかありませんでした。冬でも湿気がこもるシャワールームには、かびが生えますから、日本人の心象風景とは全く異なったものでしかなかった。この土地に多少暮らし慣れたとはいえ、まだまだ私たちは外国人であったといわざるを得ません。

 それやこれやで6月のテーマは酒になりました。どういうことにしたものかと思案投げ首でしたが、そこは良くしたもので日本人、中国人全員の先生方の知恵で、日中両国のきき酒、山梨県の葡萄酒の話(甲府商工会議所成都事務所の方)、日本の現在の酒文化(新華社の方)のお話をして頂くことができました。

 でも最大の見せ場は、先生方全員出演の『但願人長久(水調歌頭)』という蘇軾の詩を歌にしたものに、先生方が踊りを踊るという出し物でした。6月の歌は蛙の合唱で、中川先生指導による輪唱は全場を大いに盛りあげました。

 今回はこれで失礼します。校長先生によろしくお伝えください。

        6月16日          坂本静子

 

 

<秋の便り> 

 
 

 成都の天気は、暑い暑いと思っているうちに寒く感じるといった、爽やかさの無い変なところがあります。従って女性の服装もタンクトップ姿が突然セーターになるという極端な変わりようです。

 昨日(10月7日)中川・柳坪両先生と私は、広島へ留学する予定の学生、陳さんの招待を受けて、成都の南東にある自貢市へ行きました。成渝高速道路を揺られること3時間半、昼過ぎに着いた降車口に、『先生!』と言って陳さんが立っていました。お母様の手料理をいただくと思っていましたら、その場所はレストランでした。たくさんの料理をご馳走になった後、有名な自貢の恐竜博物館を見学しました。私は過去、重慶の恐竜博物館へ行ったことがありますが、立体的な展示に加えて実際に地表に掘り出される状況や、広い範囲に露出した状態のもの、様々な動植物の化石は、本当に興味深く、重慶の比ではありませんでした。

 この自貢は岩塩が産出することでも有名で数十メートルの櫓を立てて掘り出されています。でも時間が無く残念ながら、見学できませんでした。もう一度是非いらっしゃいとおっしゃったご両親は、きっとその場所を見せたいと思われたのでしょう。この自貢市から1時間余りの南に宜賽市があります。そこは長江の河畔に開けた街で、最近日本でも有名になった九賽溝辺を源流とする岷江が青海省を源に流れる金沙江と合流する地でもあります。岷江と合流した金沙江は、そこから名前が長江になります。そのため、宜賽市内には”長江江頭の地”の文字があります。又、宜賽は有名な五糠液という白酒の故郷でもあります。

 中国では10月1日の国慶節から5日〜1週間休みの秋のゴールデン・ウィークです。日本語学校も1日から7日まで、1週間の休みになりました。10月6日夜、金沙というミュージカルを柳坪先生たちと見ました。素晴らしかったです。では、又。

            10月8日                                  坂本静子

 

 
 

 

<冬の便り>

 一月末の春節に向けて、街はようやく歳末らしい様相を呈してきました。

 ご存知のように、中国の人たちは赤い色を慶賀の印としていますから、福の張り紙から蜂の巣の飾り物まで赤一色になりました。スーパーなどのそういった春節用の飾り物売り場は『真っ赤』だと、これは中川先生の表現です。この地方では、毎年春節のご馳走に、自家製ソーセージや、乾肉(豚・とり)を12月に仕込みます。ベランダや窓に、すだれの様にぶら下がるのが土地の風物詩になっています。以前は自分で作っていましたが、経済的にゆとりができた家では、デパートやスーパーで買う人も多くなっています。又近年では肉屋さんで自分の肉を選び、調味料の量を指示して作ってもらうのが一般的になりました。我が家の主のソーセージも同じ方法で作っています。とても味がよくて、できることなら、食べていただきたいですが、残念ながら叶いません。

 1月14日、今年最初の日本語コーナーがありました。柳坪先生は初登場で、お正月の歌の指導をして頂きました。日本のお正月の紹介で、お節料理、初詣で、福笑い、おみくじ、正月の遊び(コマ廻し、羽根つき)等でした。和服を着せてほしいという少女たちがいて、浴衣くらいのつもりでいたら、得体の知れないものでびっくりしました。アニメを見て自分たちで作ったそうで、着付けに少々戸惑いました。去年の夏休みの学生だったとか・・・・。彼女たちの要望はまだあって、日本の古い踊りを教えて欲しいと言われて、これには少々参りました。中川先生にもお願いしたようで、でも望み叶わず、実現できませんでした。(実現は少しオーバーですが)後で聞くと、柳坪先生は少しおできになるそうで、がっかりして帰ったことを思うと、ちょっと残念でした。成都の若者達の間でコスプレ?が流行しているようです。

 この土・日学校のリクレーションで成都から車で2時間の西嶺雪山へ1泊旅行します。スキーができて、温泉もあるそうです。寒に入って当地も寒くなりました。でも立春はもうすぐ、くれぐれもご自愛くださいませ。

            1月18日                                  坂本静子

 

 

 

<春の便り>

 成都には珍しい晴れ上がった天気になりました。2月の始めの強い南風が吹いて、このところ南からの風が多くなりました。今日もその風が吹いています。風が強かった翌日の朝は、露も大気の汚れも吹き飛ばされて、夜明けに星を見ることができます。但し晴れていればです。一昨日この条件が合って、久々に木星と金星を見ました。

 中日友好会館に紅梅と桜の木があります。桜は八重桜とサクランボの木です。今その紅梅とサクランボの木が満開で、紅白の幕になっています。去年はじめて見た地味な桜の花に、桜といえば染井吉野をを連想する私はがっかりしました。会館の桜は原種にちかいのではないかと手紙にも書きました。4月その木に小粒の赤い実が鈴なりになりました。八重桜は、広島とほぼ同じ時期に開花します。その頃には市場や果物屋にザルに入ったサクランボが並びます。小さいながら甘くておいしい実です。

 中国には桃の節句がありません。その代わり3月8日の国際婦人デーを『三八婦女節(サンバーフーヌージェ)』と呼んで女性の祭日にしています。企業では、この日女性のみ全休、又は半休させています。去年飛鳥日本語学校でも女性の先生方だけ午後休みになりました。校長先生をはじめ6名の先生方は、郊外にある三聖郷(サンセンシャン)へ行きました。ここは園芸農場の団地で、農家で食事や休憩もできる観光農園です。この日も珍しい晴天で、遅く着いた私達は、少々暑い陽気の中、食事ができる場所を探して広大な農園を一周しました。農園の庭先には桜や梅、れんぎょうが咲き、温室の中は花でいっぱいでした。数日で三八婦女節です。

 先ほど李さんと28階の屋上へ洗濯物を持って上がりました。成都の街は、今日も薄い霧の中でした。東の工場地帯にある高い煙突から煙が立ちのぼり、洗濯日和を象徴するかのように、アパートの屋上にはシーツ等が白く輝いていました。そして背の低い灰色のアパート群の中に、最近建てられた高層アパートが、彼方此方に見えました。屋上は少し暑さを覚える3月4日の午後です。

            3月4日                                  坂本静子

 

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